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心理学ワールド 83号 この人をたずねて 四本裕子 氏 中村 航洋(日本学術振興会PD) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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36 Profile─よつもと ゆうこ 1998年,東 京 大 学 文 学 部 卒 業。米 国 マサチューセッツ州ブランダイス大 学 大 学 院 に 留 学 し,2005年 に Ph.D. (Psychology)取得。ボストン大学,マサ チューセッツ総合病院,ハーバード大学 でのリサーチフェローを経て2012年よ り現職。専門は認知神経科学,知覚心理 学。著書は『基礎心理学実験法ハンド ブック』(分担執筆,朝倉書店)など。 この人をたずねて ■四本先生へのインタビュー ─四本先生のご研究のテーマに ついて教えてください。  一言でいうと,ものを見たり感 じたりする知覚の現象を脳内の ネットワークの働きによって説明 することを目指しています。具体 的には,時間知覚や,視覚や聴覚 などの多感覚統合について,行動 実験やシミュレーション,脳機能 計測,経頭蓋電気刺激法などを用 いて研究しています。さまざまな 知覚の現象を観察し,心理学的モ デルで説明するだけでなく,その ような現象が生じるメカニズムを 脳神経システムのレベルまで含め て理解したいというのが研究のモ チベーションです。 ─大域的なネットワークとして 機能する脳という見方から知覚を 研究する意義とは何でしょうか?  認知神経科学の研究では,あた かも脳のある局所的な領域の活動 によってこころの働きが実現され ているような語られ方をすること があります。こうした説明は単純 で分かりやすいので広く受け入れ られやすいのですが,実際には知 覚をはじめとしたさまざまな心理 現象は脳全体がネットワークとし て機能しているからこそ実現でき ているのだということを理解して おかなければならないと思いま す。例えば,視覚や聴覚の感覚情 報をコードする脳領野について は,細かい部分まで責任領野とそ の局所的な活動が特定されてい ますが,時間経過や長さの感覚を コードする時間知覚の責任領野は 見つかっていません。時間の感覚 というものは神経オシレーション によって形成される脳の広域な ネットワークの相互作用によって はじめて実現されるもので,脳の 局所ばかりを眺めていても明らか にできない現象や事象は実に多く 存在しています。これからはそう いった現象を深く探っていきたい と考えています。 ─実験心理学的な知覚研究に神 経科学的な視点の必要性を感じた きっかけはありますか?  ブランダイス大学大学院に在籍 していた頃,ヒトが見た映像の視 覚的記憶が不正確になっていく過 程を数理モデルによって説明する という研究に取り組んでいまし た。こうした研究で,記憶の変容 の時間特性や干渉現象を上手く説 明することができるようになった わけですが,他の研究者から「い くら数理モデルによって視覚を説 明したつもりになっていても,脳 の中で本当にそんな仕組みがある のかわからない!」という批判を 受けたこともありました。それが 反動のエネルギーに転じて「じゃ あ脳の活動だって測ってやろう じゃないか!」という気になっ て,神経科学への道を拓いたきっ かけとなったと思います。そし て,実際に自分で脳の活動を計測 してみて,そこから見えてくるも のにますます魅力を感じるように なりました。ある行動や心理現象 を測定するだけじゃなくて,それ を生み出す脳の仕組みを含めて理 解していくことで,目の前にある 現象をより深く理解することに繋 がりますし,「こういう視覚刺激 の提示の仕方をすると神経系に こんな変化が生じるはずだから, 知覚の歪みはこう変化するはず だ!」といった具合に,行動実験 の仮説を精緻化し,さらにその仮 説を脳波計測や経頭蓋電気刺激の 実験で検証するといったことが可 能になります。 ─ 10年近くにもわたる海外で の研究活動は今にどのように繋 がっているでしょうか。  海外での研究生活を経て,研究 者として精神的にも肉体的にもタ フな人間になって日本に帰ってき たというのが一番しっくりくる表 現かなと思います。アメリカでの 研究ってものすごく競争的で,大 学院時代は自分でなんとか道を切 り拓かないとどうにもならないと いう焦りから,常に前のめりの姿 勢になっていましたね。特に,ボ ストン大学でポスドクやっている 東京大学大学院総合文化研究科 准教授

四本裕子

インタビュー

中村航洋

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37 この人をたずねて 頃は,世界中から優秀な研究者た ちが集って,そんな環境の中でし のぎを削っていると,自ずと野心 剥き出しのギラギラ感が芽生えて きます。あの感覚はアメリカでの 研究生活がなければ経験できな かったことだろうと思います。日 本だとそういうギラついた感じが 嫌いな人もいるでしょうけど,若 い時にはそういう溢れるエネル ギーが研究において大きな推進力 になると思います。 ─四本先生の若手研究者の育成 や指導のポリシーとはどのような ものでしょうか。  私の研究室の学生は,えげつな いくらいに日々鍛えられていま す(笑)。例えば,研究ミーティ ングは全部英語で行い,毎週みん なで7本以上の国際誌論文を読ん でディスカッション。それに加え て,自分の研究プロジェクトの文 献調査と実験,ベイズ統計学の勉 強等々。これだけのことを続けて いくのは当然楽なことではありま せん。そして,学生に課したこと は私自身もすべてやります。常に 新しい技術や知識を学び続けるこ とが大事。だからこそ,高い生産 性を維持しながら研究成果を出す ことができる。筋トレと一緒で苦 しいけど,こうしたルーティーン が研究者としての資質を醸成して いくんだと思います。 ─最後に若手研究者へのメッ セージをお願い致します。  いま学生や若手研究者が研究の 道へ進むことに対してネガティブ な側面が誇張されることもありま すが,個人的には世の中で言われ ているほど悲観的になる必要はな いと思っています。皆が研究者を 目指すことを躊躇っていては研究 者不足になりますしね。何より も,研究者ほど知的好奇心を刺激 し続けてくれる楽しい仕事って他 にはないと確信しています。そん な今だからこそ,好奇心に誘われ るまま研究者の世界に飛び込んで みるのも良いのではないでしょう か。そんな皆様を四本研はお待ち しております(笑) ■インタビュアーの自己紹介  インタビューを終えて  私が四本先生に初めてお会いす る機会に恵まれたのは,四本先生 がアメリカから帰国され,慶應義 塾大学特任准教授に着任された年 でした。当時,同大学文学部の学 生で,研究者として第一歩を踏み 出すその瞬間にいた私は,四本先 生の溢れんばかりの知的好奇心と 燃えたぎる野心に魅せられて,自 然と研究者の道に惹かれていまし た。その頃,私は卒業論文のテー マとして,fMRIを用いてヒトの顔 魅力知覚の神経基盤を探る研究に 取り組んでいました。四本先生に fMRIのオペレーションや解析の ノウハウを手ほどきいただきなが ら,自分のコンピュータ画面上に 黄色く光る視覚野の活動を見た時 の感動は今でも忘れることができ ません。そんな体験が私の研究者 としての原体験となっています。  今回のインタビューを通して, 改めて四本先生の知的探究心に強 く刺激を受けました。誌面の都合 上詳しく取り上げることは叶いま せんでしたが,時間知覚や多感覚 統合の研究の他にも,健常者と脳 の機能不全をかかえた患者さんの 脳内ネットワークの比較研究やユ ニークな錯視研究等,四本先生が 取り組まれているテーマは実に多 岐に亘っています。詳細を知りた い方は是非,四本研究室のホーム ページをご覧ください。  現在の関心  私は視覚芸術やヒトの顔・身体 に知覚される美しさの感覚を生み 出す心と脳の仕組みについて研究 しています。私たちがどのような ものに美しさを感じ,それはどの ような脳機能によって実現されて いるかを考えることが私の研究に 通底するテーマです。これまでの 研究では,fMRIや脳波などの脳 機能計測によって,私たちが何か を見て美しいという感覚を経験し ているとき,前頭前野が視覚美の 経験に関与していて,この脳領域 に微弱な経頭蓋直流電気刺激を与 えると,美の経験にも変化が生じ ることを明らかにしてきました。 加えて,知覚心理学で用いられて きた実験パラダイムを美の研究に 導入し,自分の内観では明らかに できない,即時的で無自覚的な美 の知覚プロセスについても研究を 行っています。最近は,美や魅力 の知覚対象としての「顔」に興味 を持っていて,どのような顔特徴 が魅力印象の手がかりとなってい るのかを計算モデリングの手法を 使って特定し,顔の魅力印象を定 量的に操作するための技術の開発 にも取り組んでいます。今後は, 美を知覚する人間側の認知神経科 学メカニズムと美の知覚の対象の 側の視覚特徴の両面から,美の知 覚メカニズムを深く探究していく ことを目指しています。 Profile─なかむら こうよう 日本学術振興会特別研究員PD(早稲田大学理 工学術院)。2017年,慶應義塾大学大学院社会学 研究科修了。博士(心理学)。同年より現職。専 門は認知心理学,神経科学。論文はPrioritized identification of attractive and romantic partner faces in rapid serial visual presentation(共著, Archives of Sexual Behavior)など。

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